いよいよ最終回。イヤシロチのおとぎ話
迎えて、収穫の秋.
ここに。驚きの事件。
何と、毎年米の年貢の計測にきたお役人から、一気に増えた収穫の成果に今までの分をごまかしていたと疑われる始末。
と言うのも、それまで一反あたり4俵、全部で20表しか取れなかった松五郎の田です。
それが何と5反の水田から40俵の収穫になったのです。
その後は、あれほど絶え間なく続いた、病や事故、争いも無くなり、米も野菜も頑張るだけ豊作に恵まれ、今ではけかれちの松(村の意地悪な連中は、ケチ松と呼んでいたのが嘘のよう)が、いやしろちの松と自他共に認めるようになりました。
しかし、この話は秘伝にしているよう爺様にされていたので、村人は不思議でしょうがないのです。
が、性根をすえ素直に爺様に教えを請うものだけが、ひそかに豊かな実りを得ていったのは簡単な想像でした。
後日、報徳爺さんに金次郎さんが、あの時の、地鎮祭前、爺様のお師匠さまのような方は何をされていたかをお尋ねしたのですが、それだけは最後まで明らかにされませんでしたが、報徳式と言うことです。
爺様のお話で許される限りでは、
「この世は、所詮浅ましい人間の我侭で成り立っているように見えるが、さに在らず、天の恵みと、地の恵み、更に言えば宇宙の定めによって成り立っている。わしがそなた方に教えた事は、あくまでも土地の力を少しあげる方法を説いたまでじゃ。」
「土地の奥深く、天高く迄、自然の法則に逆らってありがたい人生など送れる筈も無い事は、よく考えれは当たり前の事じゃ、あの時に行ったのは、松五郎のうちとそなたのうちと、それぞれに結界を張ったのじゃ。」
「人生なんて、目に見える物ばかりで左右されているわけではないと言うことぐらい、われわれは頭では知っているはずじゃが、その結界とは、この世とあの世の境をつける事、平たく言えば、運気をあげるための方法を集中させたのじゃ。」
「邪気を遠ざけ、もとよりある運気を逃さない。あのお手伝いをお願いしたのは、わしのお師匠様とお供の方でその達人ぢゃ。」
「つまり、大きなお力をお借りして、邪気を遠ざけ、運気を逃さない気を入れて貰ったのじゃ。そなた方の、真摯な心は本物と思って特別に頼んだんじゃ。しかし、所詮、人間の真心は、易きに流れやすい故、当たり前のことを一所懸命に行い。間違えても、心に邪気を起こし、つかんだありがたき運気を自ら失う事などとんでもないぞ!」
「日々ひたすら感謝と報恩の心で暮らすのじゃ。この事、生涯忘れるでないぞ!」
と、諭され、金次郎さんは、そのことを深く実行すると共に、松五郎一家にも噛んで含ませるように教えを説き、いつまでも元気で明るく暮らして行ったそうな。
めでたし、めでたし。