第五弾!イヤシロチのおとぎ話
イヤシロチにまつわるおとぎ話ですが、今回第五弾です。
題5話
いやしろちとけ枯れ地の、特徴を自分たちの住まいや田畑で示された二人は、すがる思いで報徳爺さんに、その知恵を借りるべく頭を下げ続けました。
心やさしい報徳爺さんはにわかに、いやしろの叡智をすこし紐解いてくれました。
「お前たちに、難しい話はかえって混乱を来たすので、解り易い話というか体に感じやすいことで説明しよう。地球はひとつの磁石と同じなんじゃ、その力を地磁気と呼ぶとする。」
「とまあ、その地磁気の力が強くて安定していて、力の密度が濃いところを“いやしろち”と呼んで、その反対に、地磁気の力が弱くて、不安定で、力の密度が疎なところが“けかれち”と呼ばれているのじゃ。」
「これは、地球が自転と言って南北の極を結んだ軸を中心に、一日一回転している。
空に浮かぶお月様はこの地球の周りを一定の時間をかけて回っており、これを公転と呼んでいるが、月にも、ものを引き付ける引力と言う力があって、この地球にも及ぼしているのじゃ。その関係で、地磁気が安定したり、不安定になったり平衡感覚を乱されているのじゃ。」
「この乱す力を外乱と言って動植物はもとより人体にもえらく障害をもたらすものなのじゃが、騒音や、振動も天気や温度、湿気もこの平衡感覚を乱す、外乱の元なのじゃな。いつもこの外乱に、惑わされていると、心身の平衡感覚を見出し、自分でも心に乱れが解っても意地悪を言ったり、悪事を働いても、平気な体や精神の様子になるのじゃよ。」
「その反対に地磁気が安定していると、心も体も落ち着いて、集中力や、想像力もまし、穏やかな性格や思いやりのある人格をも培うのなのじゃ。昔から、人の幸せの条件は、何処に住むかの土地で決まると言うのは、ここからも来ているのじゃな。」
「つまりじゃな、土地の力と、人の性格や行動も共鳴してしまい、人生そのものや土地柄そのものと相似した現象もおきて来るのじゃ。まあ、逆に言うと、荒い性格の人間は、力が乱れた土地を好み、穏やかな人柄の人間は、力の安定した土地を好み、そこには、立派な人生が宿り、農作物も豊富に育ち、商売にあっては繁盛するのも頷けるじゃろう。」
「人は、本来、安定した場所に集まり、その豊かな人が良い仕事をし、よい商品や、農作物が出来ると言うものじゃ。しかし、易きに流れやすいのも人の常じゃ、体でいやな思いをするようなじめじめした暗い場所などは、図らずも戦場になる土地も多いのじゃ、ほら見てみい、いかにも争いが起こりやすそうな場所は、何度も同じことを繰り返すじゃろう。豊かな人生を歩みたいのなら、いやしろちに住む事が肝要なんじゃ。」
少し、長めのお話も、食い入るように聞き込む村人たちの群れになってしまった。
でもでもでも、気が優しくて思いやり深い金次郎さんが聞きたいのはそんな事よりも、
「松五郎さんの土地が自分の土地のように災いが少なく、米や麦も、野菜もたくさん採れて、家内安全に暮らせてあげたい」
そんな気持ちで一杯だったのです。
松五郎さんを振り返ると、以前の様に、食って掛かる力も残ってないようで、只うなだれるばかりの様子は、金次郎さんの胸を一層きつくしてしまったのです。
しかしてその、けかちと言うものをいやしろちに変えることなぞ有るのでしょうか?
信じて疑わない金次郎さんは、一所懸命に報徳爺さんにお願いをしたのでした。 続く